今回の記事では、スペインの育成年代の中でも”小学生年代”に焦点を当てて紹介をしたいと思います。
多くの指導者の方が、「なんとかしてこの日本サッカーや育成年代に貢献できないか?」のような思いを抱いているかと思います。
僕自身も、普段バルセロナで活動しているとはいえ、やはり自分の頭の中で常に頭の中にあるものは「日本のサッカーに貢献したい。」この気持ちなわけです。
では日本サッカーに貢献するためには、何をするべきなのか?
やはりたくさんの課題や問題点がある中で各指導者ができることの中で優先順位をつけて動いていかないとも思うわけです。
そんな中で僕自身ずっと抱いている思いとしては、1番にこの”ジュニア年代”の環境や行いをまずは変えていかないといけないと思っています。
なぜなら、中学生や高校生のカテゴリーになってから「何かをスタートさせる」「環境を整えてあげる」だと少し遅い部分も正直なところあるからです。
ということで今回の記事ではそんな同じジュニア年代でも、スペインでは「どのような環境整備のもとプレーが行われてるのか?」「どのようなコンセプトを持ってサッカー協会が行動してるのか?」
前提として 100%日本の現場に還元できるなど思ってもいませんが、これらの情報を聞き取っていただいて、少しでも皆さんにとっての何か気づきや共感になれば嬉しく思います。
-この記事の記載事項
❶”州ごとに異なる”スペインジュニアサッカー”
❷少し変わったカテゴリー分け
❸試合編成と時間
❹各選手の出場時間
❺ピッチサイズと設備
❻指導者は絶対しない”審判”
❼特殊ルール”オフサイド”
❽まとめ
-この記事を読んでいただくと...
❶スペインジュニアサッカーの仕組みは全てわかる
❷日本の現場にも還元できるアイデアが見つかる
❸指導者がジュニア年代に指導すべき点が明確になる
(理由は後ほど記載します!)
-この記事を書いている人
❶”州ごとに異なる”スペインジュニアサッカー”
ほとんどの方がスペインのジュニアサッカーに対して「7人制」のイメージを持たれているかもしれません。
しかし実際は、”各州ごと”に展開されているものが全く異なるのです。
スペインという国の中にもたくさんの州が存在します。その州ごとにサッカー協会が設置され、各それぞれが異なったアイデアやコンセプトを兼ね備えています。
その異なったアイデアが最も反映されているといっても良いのが、このジュニアサッカーでしょう。
このような形で、州ごとに異なった人数設定のもとサッカーが行われているのです。しかし、このジュニア年代においての基盤となる目的は共通してあるようにも感じます(最後の”まとめ”にて記載)
とは言いつつも、定期的に国内で行われる国際大会や全国大会のようなものでは大概決まって”7人制”が採用されるので今回は僕がバルセロナで指導することも踏まえ、7人制サッカーを中心に紹介します!
❷少し変わったカテゴリー分け
次にカテゴリー分けを見ていきます。
日本の現場では、各学年を「U(アンダー)-12」などして表記されることが多いかと思いますが、スペインでは各カテゴリーごとにしっかりとした名称が振り当てられています。(以下参照)
イメージとしては、2学年ごとに名前がついている感じです。
なので、例えば11歳のチームの選手に対しては「あ、君はALEVINの1年目の子ね」のような使い方もされます。
また、スペインではリーグ戦文化が根付いています。TRマッチのようなものは、シーズンが始まる前のプレーシーズンでの準備期間に行われる程度です。
なので、同時に各リーグのディビジョンが存在します。
BENJAMIN以降のカテゴリーでは合計4つのディビションが存在します。(1部・2部・3部・4部)
しかし、中には特例としてバルサの女子チームやPREBENJAMINのように学年が下でも1つ上のBENJAMINのリーグ戦に参入しているようなチームもあります。
他にも、育成に定評のあるエスパニョールは敢えてALEVIN 1年目のチームを1つ上のカテゴリーのリーグ戦で戦わせています。その背景には様々な理由があるのでしょう。
また、同じディビジョンの中でも多くのグループが存在します。
下のディビジョンに下がるにつれてグループ数も増え、多いところだと約60グループほどに登るディビジョンも存在します。
ここの整備が、上手に仕組み化されているなと感じるところでもあります。各選手が各レベルに応じたチームとディビジョンでプレーできることが最大のメリットです。
もちろんリーグ戦ですので昇格・降格・残留争いも生じます。
これによってシーズンを通してのチームとしての目標設定がしやすくなることもメリットです。
❸試合編成と時間
次に見るのが、試合の試合編成と時間設定となります。
各カテゴリーによって以下のように変わります。
4パートに分けられていることが特徴的ですが、パートごとには休憩時間が確保されています。
基本的には、1・2パート間、3・4パート間は2分間。2・3パート間は10分の休憩時間が確保されます。
❹各選手の出場時間
スペインでは、ベンチに入る全選手が平等にプレー時間を確保するために、各選手最低2パートの出場が義務づけられています。
このノルマにも、スペインサッカーの特徴が見られる背景がありますので
詳しくはこちらの動画で解説しているので是非ご覧ください!
ちなみに選手交代は最終パートのみ可能となります。(怪我の場合は他パートも可能)
❺ピッチサイズと設備
コートのサイズはグランドによってもかなり変動することもありますが、基本的には縦最大65・最低50、横最大45・最低30mと決まっています。
ただクラブによっては極端に大きなサイズと小さなサイズのコート両方を所有しているクラブもあり、週末の対戦相手の特徴によってそれらのコートを使い分けるようなクラブもあり、試合前からこのような面でも駆け引きもが行われています。
他にも、練習・試合前にミーティングを行うロッカールームやピッチに水を撒く機械、あとはゴールもこのようにして、ローラー式になっていてセッティングがとても簡単な作りとなっています。
❻指導者は絶対しない”審判”
スペインでは、審判が協会から派遣されるので、指導者が審判を務めることはありません。
また、主審のみの派遣となり副審はなしでの試合となります。※U-15カテゴリーの1部以上から副審が付きます
また試合前には、各グランドにある”審判ルーム”に各チームの指導者が行き、スターティングメンバーとベンチメンバーを報告するとともに、選手証と指導者証の確認が行われます。
ついでと言ってはなんですが、スペイン人の保護者は審判へのヤジもプロ並みに行いますので、なりたくない職業ランキングではかなり上位だとも友人が言っていました。(笑)
❼特殊ルール”オフサイド”
最後にこのスペインジュニアサッカー1番の最大の特徴でもある”オフサイドルール”をご紹介します。
まずは簡単に何が特別なのかというと、ペナエリア手前に一本の線が引かれています。(画像参照)
要するにこのラインより先がオフサイド、逆に言えばこのラインまでは攻撃の選手はどれだけ深さをとってもオフサイドにならないと言う事になります。
ルール自体はシンプルですが、このルールによる主なメリットとしては、このラインまで前線の選手が”縦の深さ”を取れるので、スペースの縮小によって、自陣で相手のプレッシングによって押し込ままれるような状況は明らかに減ります。
なので、「よくスペインでは団子サッカーが見られない」などと言われる方もいますが、もちろん彼らスペイン人指導者の指導法や普段の練習の成果でもありますが、このオフサイドルールのようにそもそもの仕組みによって団子サッカーが生まれにくいような環境を作っているんだということも理解した上でスペインサッカーに対しても目を向けるべきかなとも思います。
少し話を戻すと、やはりより広い横の幅と、縦の深さが取れることに大きなメリットがあります。
ただ逆に言えば、攻撃にとってはかなりのメリットとなりますが、守備側からするとかなり厄介なルールではあります。
それこそ日本の8人制サッカーだと、通常のオフサイドルールの中で前線にポジショニングを取る選手に対し守備側は、高いラインを設定し前線の選手に対してのパスを規制することが可能になります。
しかし7人制サッカーではこのような守備戦術を取ることは困難になり、守備側は相手の前線の選手に対してのボールを阻止するためにラインを後退させ、守備の厚みを増やす必要があり、深さを取る選手に対してマークに付くという状況が生まれやすくなります。
なので、逆に攻撃側からすると、深さを取った味方の前線の選手に対して相手のラインが後退すると、単純なキーパーからのロングボール一本で前進するという戦術はあまり効果的ではないと言えます。
よって、攻撃のビルドアップの局面、ゴールキックから始まる局面では一本のロングキックでフォワードの選手まで前進する状況は少なく、ゾーン1からショートパスをつなぎ前進を試みるチームが多いということになります。
もちろんチームの特徴プレーやシチュエーションよってはダイレクトプレーを用いて前進を試みるチームも存在します。
例えば、1-3-2-1のシステムでプレーをしていると仮定した時に1トップの選手に対して相手3枚のDFがいる状況で数的降りではありますが、そ1トップの選手がものすごくのフィジカルに特徴のある選手で、質的優位がある場合は、ゴールキーパーから一気にロングボールを放り込んで前進するようなチームもあります。
他にも例えば、バルサのようなボール保持に優れたチームに対し相手チームが前線からハイプレッシャーに来るような状況の中では、敢えてショートパスをゾーン1で蓄積させます。
そうすることで相手も同時にゾーン1に蓄積させたところで一発でロングパスをFWに入れて前進するようなパターンもあります。
指導者によってはこの戦術のことを”縦のオーバーロード”と言われる方もいます。(以下参照)
ただ、相手のハイプレスに対してここまでショートパスを繋げないようなチームは、ゴールキックの地点でボランチの自陣に下がる動きだけで相手を引きつけて一気にゴールキーパーからロングボールを放り込むようなチームもあります。
※このオフサイドルールによって生まれるメリット・デメリットに関して実際にバルセロナで指導するスペイン人指導者にインタビューを行った動画もありますので重ねてご覧ください!
❽まとめ
ここまでスペインジュニア年代における7人制サッカーの話をしてきましたが、そもそもでジュニア年代にこの7人制もしくは日本の8人制サッカーを行うメリットは何なのか?
僕自身の中大きく分けて3つを考えています。
①ピッチのサイズがより小さくなるので、その分各チームがゴールまでの到達する機会が増えます。なので、選手からして一番行いたいアクションの1つでもある”フィニッシュ”のシーンがより頻繁に生まれる中で、前線の選手だけに限らずチーム全員がこの局面に関わることができる。
②より少なくそして小さなスペースの中で、テクニックや個人戦術アクションの部分、もしくはグループ戦術アクションをより効果的に発揮するための認知と決断のプロセスの回数がより増えるなかで彼らがフットボールを学ぶことができる。
③攻撃に限らず全ての局面においてより全員で関わっていくといった意識が高くなる。
改めてこのジュニア年代のサッカーの特徴や強みを整理していくと、これらの仕組みを生かして今私たち指導者がこの年代において取り組めることが明確になってきます。
ジュニア年代の1つの目標の中に、「11人制サッカーへの移行をスムーズにさせる」があります。
この目標を達成するためにも、今一度できることは何か?を見つめ直すことも重要ではないでしょうか?
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